中国デジタルマーケティングトレンド2025
~変わる世界、進化する中国~
2025年4月2日、トランプ大統領が2種類の新しい関税政策を発表し、国際取引を取り巻く状況に再び緊張が走りました。
とりわけ中国を取り巻く環境は大きく変化しており、2018年の第一次トランプ政権時以降、米国による高関税措置や輸出規制強化が相次ぎ、「世界の工場」から「国内消費とデジタル主導の成長」へと経済モデルの大転換を迫られてきました。
中国は外需に依存した輸出主導型経済からの脱却を図るなかで、中国政府や企業は中国国内市場での競争力強化に取り組んでおり、こうした経済環境の変化は、中国でのマーケティングの在り方にも構造的な変革を促しています。
世界中で不確実性が高まる今こそ、マーケティングにおいても変化の兆しをいち早く捉え、戦略を柔軟に適応させる力が求められます。そこで本記事では、これから中国市場を攻略しようとする企業に向けて、最新の中国デジタルマーケティングの最新トレンドをご紹介します。
2025年 中国のデジタルマーケティング最新トレンド
中国のデジタルマーケティング環境は常に進化しており、競争の激しい市場で勝ち残るためには、新しいマーケティングトレンドを把握し、最先端テクノロジーを取り入れることが不可欠です。不確実性が高まる環境の中でも、デジタルは依然として中国市場で最も有効なアプローチ手段であり、今後のビジネス成功に直結する要素となっています。
では、2025年の中国において、どのようなデジタルマーケティングの動きが注目されているのでしょうか。ここからは、押さえておくべき主要トレンドを具体的に見ていきましょう。
1.ソーシャルコマースが標準化 
中国におけるソーシャルコマース市場は、今後も成長を続け、CAGR9.4%、2029年までには現在の倍近くのとなる745.3億ドル規模に達すると見込まれています。
コロナ禍をきっかけに、これまでネットショッピングを利用してこなかった中高年層にもECの利用が広がり、オンライン市場にはこれまでとは異なる新たな消費者層が流入しました。加えて、RED(小紅書)やDouyin、WeChatミニプログラムなど、SNSとECを融合させたプラットフォームの普及や、シームレスな決済体験を可能にする技術開発の進展も、ソーシャルコマースの拡大を後押ししています。
こうした背景のもと、従来の電子商取引からソーシャルコマースへの移行が進み、マーケティング戦略も変化しつつあります。現在では、インタラクティブな体験とショッピングを一体化させた新しい形のプラットフォームが、企業にとって重要なチャネルとして注目されています。
中国で人気のソーシャルコマースプラットフォームはどれですか?
→ 中国における主要プラットフォームは、WeChat、Douyin、RED(小紅書)、Pinduoduo、Taobaoです。これらのプラットフォームは、パーソナライズされた顧客体験からシームレスに統合されたショッピング 機能を備えており、中国におけるソーシャルコマースの成長を牽引しています。
2.ショート動画とライブ配信は必須施策に!
中国のデジタルマーケティングにおいて、ショート動画とライブ配信は単なる補完的なチャンネルではなく、必須施策になりました。ブランドの認知獲得から購買促進まで、あらゆる顧客接点において、これらのフォーマットが圧倒的な影響力を持っています。
ライブ配信では、インフルエンサーやブランド自身がリアルタイムで商品を紹介し、視聴者と直接対話を行います。これは、疑問や不安をその場で解消し、購買を後押しする「インタラクティブな信頼構築」を可能にします。単なるプロモーションではなく、そのライブ配信に参加することが「ブランド体験」そのものになるのです。
ショート動画は、「検索して買う」という従来の購買行動を、「発見して欲しくなる」という衝動型・感情起点の購買行動へと変化させました。これは特に若年層の消費スタイルにマッチしており、Z世代・ミレニアル世代をターゲットとするブランドにとっては、戦略の根幹をなすチャネルと言えるでしょう。
→ 中国では「Douyin(中国版TikTok)」の存在は欠かせません。月間アクティブユーザーは7億人を超えるDouyinは、ショート動画とライブ配信に特化しています。
Douyinを利用しているユーザーには、視聴履歴や興味関心に基づいて最適な商品がレコメンドされます。また、Douyinのインタラクティブ機能(Q&A、商品リンク、インフルエンサーとのコラボレーションなど)やスムーズな購買行動を促すショッピング機能は、高い収益を生み出す強力なツールとして機能しています。2024年、Douyinの流通取引総額(GMV:Gross Merchandise Value)は、前年比30%増の約73兆5,000億円に到達しています。出典:JETRO
3.AI検索の浸透~パーソナライズマーケティング~
デジタル先進国中国では、スマートホームデバイスから次世代EV車までAI駆動型社会が構築されています。そのため、デジタルを駆使する中国の消費者は既にAIに非常に慣れており、消費者はパーソナライズされたサービスを求める傾向が強まっています。デジタルマーケティング施策においては、ユーザーエクスペリエンスとインタラクティブ性を高める施策が重要となってきます。
→ 中国で最も利用されている検索エンジンの一つ Baidu(百度)の検索結果でも、レコメンデーションを必要とする検索クエリに対して、AIアシスタント機能を実装しています。オーガニック検索にAIが推奨されたことで、消費者の検索方法が変化しています。SEOも引き続き重要ですが、文脈に沿った、会話的で、AI検索に最適化されたコンテンツ制作が不可欠です。
4.体験型コマースの拡充
中国のデジタルプラットフォームは、単なるオンライン販売を超えて急速に進化しています。AI、スマートロジスティクス、ARやVRの進化により、今後数年間で消費者とオンラインストアの関わり方に大きな変化が見られると予想されています。
オンラインストアは単に商品リストを提示するだけでなく、ARを使ったバーチャル試着、ライブ配信による新商品発表、カスタマイズ機能を通じた個別体験の提供など、より没入型のショッピング体験へと進化しています。
中国政府によるデジタルインフラやテクノロジー導入への投資は、こうしたトレンドをさらに加速させ、ショッピング体験を根本から変えると予測されています。今後、急速に変化する中国市場で勝ち残るためには、、AIを活用したシームレスで没入感のあるショッピング体験の設計に注力することが不可欠です。
→ さまざまなプラットフォームで体験型ショッピング機能が実装されていますが、主要プレイヤーであるTaobaoやJD.comでは、AIによるレコメンデーションや仮想試着が実装されており、パーソナライズされた購買体験が一般化しています。また、WeChatミニプログラム上て提供しているカスタマイズ機能のように、若者層の「自分らしさ」を重視した購買行動にも対応が進んでいます。これらのテクノロジーが進化することで、消費者の信頼を高め、ショッピング体験を向上させることが期待されています。
5.信頼とブランド価値が問われる時代へ——KOC・ブランド広告・ストーリーテリングの再評価
中国におけるオンラインショッピングにおいて、消費者の意思決定に最も大きな影響を与える要素のひとつが「信頼」です。近年では、安全な取引ができるだけでなく、透明性や誠実なコミュニケーションを通じて築かれる関係性が、ブランド選定においてますます重要になっています。
これまでの中国市場では、ライブコマースや短尺動画広告に代表される「トラフィック優先型マーケティング」が主流でした。Douyin、RED、WeChat、Tmallといった成熟した広告エコシステムにより、誰でもクリック数やROASを追いかける戦術が実行可能になった今、あらゆる広告が“似たような内容”になってしまうという課題が顕在化しています。
また、どの企業も「20%オフ」「送料無料」といったプロモーションを展開するなかで、消費者はブランドよりも価格を基準に選ぶようになり、ブランドの差別化が難しくなっています。消費者は「どうせまたセールになる」と考え、通常価格では購入しなくなり、ブランドエクイティ(信頼・好意・記憶)の低下を招いてしまいます。
そのため、「ブランド全体の“信頼資産”=ブランドエクイティをどう築くか」が、再び注目されてきています。
→ Douyin(TikTokの中国版)をはじめとする主要プラットフォームは、「マインドシェア(記憶に残るブランドの印象)」や「ブランド想起」といった長期的指標の可視化・計測ツールを強化しています。一時的なバズやパフォーマンス広告に偏らず、共感や記憶に残るブランド体験をどう提供するかが、2025年以降のマーケティングで問われる視点と言えるでしょう。
6.中国で加速するプライベートドメイン戦略
熾烈な競争と多様なオーディエンスを抱える中国市場では、プライベートドメイントラフィックの効果的な活用は最優先事項になっています。
プライベートドメイントラフィックとは、ブランドと顧客とのコミュニケーションがプライベートチャネルからのトラフィックを指し、ブランドが自ら管理・運営するチャネル上で顧客との直接的な関係を構築し、維持する仕組みのこと。ブランドが管理または所有していないトラフィックソースである「パブリックドメイン(Public domains)」とは対照的です。
従来のパブリックドメイン(例:検索広告やソーシャル広告)とは異なり、獲得後の関係構築やロイヤルティ強化に重点が置かれており、再購入・顧客維持を促進します。中国の消費者は選択肢が多く、ブランドとの関係性やパーソナライズされた体験を重視するため、この独特なプライベートドメイントラフィックシステムを理解し、適応することは極めて重要です。
→ WeChatは公式アカウント、ミニプログラム、WeChatグループなどを活用することで、企業のカスタマーサービスからeコマースまで、あらゆる機能を同じプラットフォーム内で実行できます。WeChat内には膨大なユーザー情報が蓄積されており、幅広い機能を活用して、「誰に・いつ・どのようにコミュニケーションを行うか」を企業がコントロールしながら、顧客との継続的かつ直接的なコミュニケーションが可能です。DouyinやRED(小紅書)といったプラットフォームにも広がっており、中国におけるプライベートドメイン戦略の成功に不可欠な要素となっています。
結論
トランプ政権の関税政策が再び注目を集めるなか、中国に進出している多くの企業がサプライチェーンや市場戦略の見直しを迫られています。しかし、こういた政治・経済の揺らぎとは対照的に、中国国内におけるデジタルマーケティング戦略の重要性はますます高まっています。
2018年の第一次トランプ政権では、対中関税政策によって「世界の工場」だった中国は大きな転換を迫られ、デジタルと内需主導の成長モデルへと舵を切りました。今回の関税措置もその延長線上にあるものの、むしろ中国は既にに圧倒的なスピードでデジタル経済を強化し、マーケティングのフィールドを高度に最適化していると言えるでしょう。
ソーシャルコマースの急成長、ライブ配信とショート動画、AI検索の浸透、そしてプライベートドメイン戦略の台頭。こうした変化は、一過性のトレンドではなく、企業の成長に直結する「新たな土台」として定着しつつあります。だからこそ、中国市場を中長期的な視点でとらえ、的確なデジタル戦略を構築していくことが、今後ますます重要になるのではないでしょうか?
関税政策に関しては、「Center for Strategic & International Studies」の情報を参考にしています。随時変更される場合があるため、最新情報はお客様でご確認ください。出典:https://www.csis.org/analysis/china-and-impact-liberation-day-tariffs


吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括。オーストラリアの永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本8年を経て、現在はシンガポールからフルリモート3年目。