WeChatとLINEの共通点と違い
~アジア2大コミュニケーションツールを紐解く~
2021年3月1日、ZホールディングスとLINEの経営統合が完了し、大きな注目を集めました。この経営統合により、ZホールディングスとLINEを合わせた時価総額は、日本のIT業界の巨人「楽天」の約2.2倍、売上高は1.05倍に達しました。
同時期の3月12日、楽天に対して日本郵政が1500億を出資するニュースが報じられ、こちらも大きな話題となりました。さらに、楽天は中国の巨大IT企業テンセントとも約650億の資本提携を行い、広大な中国インターネット市場進出への突破口となるのではないかと注目されました。
このダイナミックな再編の背景には、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)や、中国の3大企業 BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)といったメガプラットフォーマーとの競争が激化している現状があります。こうした世界的プレーヤーと競争するため、国内企業が新たな戦略を模索しているのです。
<2021年3月1日に実施されたZホールディングスとLINEの経営統合、3月12日日本郵政が楽天に1500億を出資>
こうしたダイナミックな業界編成の中、私たちの日本国内で圧倒的な普及率を誇る「LINE」と、中国の日常生活に深く根差したスーパーアプリ「WeChat」は、それぞれの地域で不可欠なコミュニケーションツールとして利用されています。
どちらも緑を基調としたアイコンが特徴的ですが、その機能や特徴にはどのような違いがあるのでしょうか?
今回の記事では、日本人にとって馴染み深い「LINE」と、中国テンセントが提供する「WeChat」を比較し、「海外マーケティング」という視点で、それぞれの共通点や違いを深堀していきます。
日本人のコミュニケーションツール「LINE」とは?
LINEは2011年に日本でリリースされた、メッセージングアプリです。
国内外や通信キャリアを問わず利用でき、ユーザー同士の音声・ビデオ通話やチャット、スタンプ、ゲーム、漫画、音楽、ユーザーがお金を送受信できるLINE Payという機能など、多岐にわたる機能を備えたマルチプラットフォームです。
全世界で月間アクティブユーザーは1億8,700万人を超えており、日本国内の月間ユーザー数も9,700万人を突破しました。2024年、日本のインターネットユーザーが 1億440万人 であることを考慮すると、インターネットユーザーのほとんどがLINEを利用していることになります。
LINEは日本だけでなく、「タイ・台湾 ・インドネシア」でも広く利用されています。特に台湾では、2018年にサービスが開始以来、月間アクティブユーザーが2,100万人を超えており、台湾の人口が約2,400万人であることを考慮すると、台湾国民の9割近くの人がLINEを使用していることを意味します。
同様に、タイでも2020年第3四半期には月間アクティブユーザーが4,700万人に達しており、人口約7,000万人の約6割以上がLINEを活用するなど、着実に市場を拡大しています。
※ 2024年 第2四半期 LINEヤフー株式会社 決算説明会「資料」
中国のスーパーアプリ「WeChat」とは?
WeChatは、2011年に中国のテクノロジー企業Tencent(テンセント)により開発され、シンプルなメッセージングアプリとして誕生しました。現在では、月間アクティブユーザーは13億8千万人を超え、中国の日常生活において無くてはならない「スーパーアプリ」として利用されています。※ 2024年第三四半期 業績資料
WeChatの機能は、メッセージの送受信から音声・ビデオ通話、写真や文章を友達と共有できる機能、ショッピング機能、ゲーム、小説、食材のオーダー、配車サービス、チケット購入、支払い機能などは公共料金の支払いなども可能で、生活に必要な、あらゆるサービスがアプリ内で結びついており、デジタル大国・中国では不可欠なツールです。
対応範囲は、20以上の言語と200の国と地域をカバーしており、2024年には世界で6番目にユーザー数の多いソーシャルメディアです。WeChatは中国のモバイルデータ消費の27.7%を占めるほど普及しており、BtoB・BtoCの電子商取引の主要プラットフォームとしても機能しています。
数ある機能を備えるスーパーアプリですが、WeChatの機能で中国国内で最も使用されているのは「メッセージ機能」です。
「WeChat」と「LINE」の共通点
では、日本人に馴染み深いLINEと中国人に馴染の深いWeChatでは、どのような類似点があるのでしょうか?見ていきましょう。
リアルタイム・コミュニケーション
WeChatとLINEどちらも、リアルタイムでコミュニケーションが取れる機能を実装しています。テキストや音声メッセージ、画像や動画、ファイルの共有、音声通話、ビデオ通話、グループチャット、絵文字の送信などの機能を提供しています。
多言語機能
どちらも多言語対応しており、グローバル展開しています。
WeChatは、中国語のほか、英語、日本語、スペイン語、韓国語、イタリア語など約20言語に対応しています。LINEも、日本語、英語、中国語、アラビア語、イタリア語など17言語に対応しています。
<WeChat対応言語>
どちらも世界を網羅するのに足る多言語ツールであり、グローバル展開を後押ししてくれるコミュニケーションツールと言えるでしょう。ただし、WeChatは、中国の消費者向けに設計されているため、ローカルユーザーを優先して、繁体字、簡体字の使用を優先させる傾向があることに注意が必要です。
企業がマーケティング施策に活用できる
WeChatもLINEもどちらも、「公式アカウント」を取得し、企業がプロモーション・デジタルマーケティングに活用するための機会を提供しています。
WeChatには、サブスクリプションアカウント、サービスアカウント、公式アカウント、ミニプログラムの4種類の公式アカウントが用意されています。企業アカウントを通じて、ユーザーにメッセージを送信したり、企業が自ら独自のメニューを作成・設置し、自社コンテンツに効果的に誘導したりすることが可能です。
LINEでは、企業や店舗がLINE上にアカウントを作成し、友だちに追加したユーザーに対して情報発信などが行える「LINE公式アカウント」があります。こちらもWeChat 同様、ユーザーにダイレクトにメッセ―ジを送ることができる他、タイムライン投稿やクーポン配信などユーザーコミュニケーションとして活用できる多彩なメニューが揃っています。
企業のSNSマーケティングに活用しやすいという点で、2つのアプリは共通しています。
セキュリティとプライバシー保護
LINEは、顧客データを安全にやり取りするために、「エンドツーエンド暗号化」によって会話のプライバシーとセキュリティが確保されています。しかし、2023年11月に、一部システムの認証基盤を親会社のネイバーと共有していたため、ネイバーのシステム経由での不正アクセスされるという事件があり、一時期日本でも話題になりました。
WeChatの場合、中国人ユーザー向けのコミュニケーションツールという点で、LINEと比べて、プライバシーとセキュリティに対するアプローチは大きく異なります。WeChatでは、ユーザーのデバイスとサーバ(サービスを提供する側のデータベースやアプリケーション)が通信を行う際に、そのデータを暗号化して保護する方式である「Advanced Encryption Standard (AES) 256 」などの暗号化手法を使用しています。
一方で、中国で活動する全ての企業は、政府の要求に応じてユーザーデータへのアクセスを提供することが義務付けられているため、政府からの監視が行われる可能性があります。特に政治的トピックなどは厳しく検閲される傾向にあるようです。
「WeChat」と「LINE」の違い
では、WeChatとLINEはどのような点で異なるのでしょうか。今度は違いについてご紹介します。
ターゲット市場とユーザー層
WeChatの月間アクティブユーザー数は、全世界で13.8億人を突破し、世界で6番目に利用されているソーシャルメディアです。それに対しLINEの月間ユーザー数は全世界で1億8,700万人ほどです。
WeChatユーザーの大部分は、主に中国出身のユーザーです。そのため、中国以外の地域におけるWeChatの利用率は高くなく、マレーシアで1,200万、インドで1,000万、ロシアで950万と続きます。中国人ユーザーが8億人以上であることを考慮すると、中国以外での利用率は高くないと言えるでしょう。
一方で、LINEの場合、冒頭でもお伝えしたように、タイ・台湾 ・インドネシアでも広く利用されています。また、全世界ユーザーが1億8,700万人のなかで、約1億人が「日本以外」のユーザーであることを考慮すると、LINEは少しずつ着実に世界的なシェアを高めているといえるかもしれません。
WeChatは実用的、LINEはエンタメ要素が高い!
WeChatもLINEも、様々な機能でコミュニケーションを取ることができる点は共通しています。
WeChatは、支払い機能を通じて、銀行口座を統合することができたり、電子商取引で商品を購入できる、公共料金の支払いなど、日常生活に直結した機能が豊富にあります。WeChatには「既読機能」が付いていないことも有名です。
LINEは、LINE MusicやLINE Bubble、LINE Play、LINE Camera、LINE Cardなど、エンターテイメントプラットフォームとしての機能が強い傾向にあります。日本の文化である絵文字が進化したスタンプは、まさにその象徴的なものでしょう。ユーザー同士が楽しくコミュニケーションを取るための手段としてのツールと言えるでしょう。
ただし、海外版のLINEと日本版のLINEは微妙に機能が異なるため、グローバルで活用する場合には注意が必要です。
さいごに
世界的に人気なSNSといえば「Facebook・WhatsApp・Instagram」などが頭に浮かびます。一方で、アジア地域に目を向けてみると、そこには独自の発達を遂げるローカルSNSともいえるプラットフォームが多数存在します。
そうした”ローカルプラットフォーマー”ともいえる、WeChatとLINEは、日々のコミュニケーションに欠かせません。また、同時に企業のマーケターにとっても、アジア諸地域で愛用される2つのアプリを使いこなすことで、的確なデジタルマーケティング施策に繋げることができるといえます。
日本とは異なる世界のSNS事情に関わるグローバルマーケティングでお困りのことがありましたら、ぜひ私たちにお申し付けください。
吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括しています。 オーストラリア永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本9年を経て、現在はシンガポールからフルリモート中。